「時をかける少女」「サマーウォーズ」など数々の人気作を世に送り出してきた細田守監督の最新作「竜とそばかすの姫」。
主人公すずの圧巻の歌声や映像美から話題になっている今作。
「竜とそばかすの姫」公式サイト (ryu-to-sobakasu-no-hime.jp)
今回は、このストーリーついて考察していきますの
なぜ彼が「竜」だったのか、幼馴染のしのぶくんの役割はなんだったのか。と
そんな疑問を考察していきます。
「竜」の正体と伏線とは?
仮想世界U・ユーを荒らす怪物「竜。
その正体は映画の後半になり、初めて明かされます。
ここから先は映画の核心に触れています。
「竜」の正体は、現実世界で主人公すずとは面識のない、14歳の恵(けい)という少年です。
恵はすずとは面識がないものの、実は映画の中ではたびたび登場しています。
その過程で、「竜」の正体について伏線が張られていました。
伏線① 弟・知(とも)のAS
恵の最初のシーンは、YouTube「ひとかわむい太郎&ぐっとこらえ丸」で謎の存在「竜」に関するインタビューを受けているシーンです。
しかしここでインタビューに答えたのは恵の弟、知(とも)。
知はこのインタビュー内で「竜は、僕の…ヒーロー…なんだ…」と口にしています。
知の受け答えは、どこかたどたどしく、表情もどこか機械のようです。
この原因として物語後半、恵と知は父親から暴力を受け、部屋に監禁されていたことが分かります。
実はこの知のAS・アズ(仮想世界でのアバター)に、すずのAS・Belle/ベルとして何度か接触しています。
クリオネのような容姿をしたこちらの知のAS。
「天使」という名で呼ばれています。
この「天使」、すずが初めてベルとして仮想世界Uにログインし歌を歌った際に、ベルに「君はきれい」と言葉をかけています。
実はそのはじめの歌唱では、ベルの歌は全く評価されていませんでした。
誰もベルの歌に足を止めず、落ち込むベルに「君はきれい」と声を掛けます。
そしてすずがログアウトしたあと、知はベルの初めてのフォロワーとなります。
しかし、この際コメントは「 」と空白でした。
筆者はこのコメントが空白の理由として、知が監禁されていたからと考察します。
実際に物語後半、ともがYouTubeで「竜を応援しよう」という配信をしていますがそのタイトルは、
「りゅうをおうえんしよう」となっています。
ともは14歳のけいの弟なので、11歳前後だと予想できます。
11歳にもなると、基本的な漢字は読み書きが可能な年齢なはずです。
しかし、けいとともの兄弟は父親によって監禁されていました。
なので学校等にも行っていないことが予想できます。
そのため、会話は可能でもチャットでの入力ができず「 」となっていたことが分かります。
「天使」はすずが「竜」のオリジンを探している際に行うU上でのインタビューにも登場し、武闘大会で「竜」に勝った3人の中に登場します。
この武闘大会、「竜」の対戦成績は374戦369勝3敗2引き分け。
「竜」の強さが分かるシーンです。
すず達が「竜」の正体を暴こうと「竜」と対戦した人に行ったインタビューでも「天使」は「 」としか発言していません。
また、ベルが「竜」の城に入った際、竜の痣が増え、「天使」は横で倒れてしまっていました。
この時、「竜」が大事そうに「天使」を抱えます。
これはまさしく現実の恵と知の関係です。
なかなか序盤では「竜」の正体に気づくことは難しいですが、この「竜」と「天使」の関係に伏線が張られていました。
伏線② 「竜」の圧倒的な強さとすずの歌
この物語では「竜」が圧倒的に強い存在として描かれています。
象徴的なのがUの武闘大会の結果です。
「竜」の対戦成績は374戦369勝3敗2引き分け。
さらに、戦った相手のデータまでも破損してしまうという凶暴さ。
これが「竜」がUの世界で批判されている理由です。
ではなぜ「竜」がここまで強かったのか。
「竜」のオリジン(現実世界の自分)の恵は、父親から日常的な暴力を受け、その暴力から弟・知を守っていました。
そのため感覚器官を共有する恵のAS「竜」の背中には無数の痣があり、暴力を受けるたびにその痣はどんどん広がっていたのです。
今作ではアバターと痛覚や視覚、聴覚機能を共有しているためです。
その暴力に耐える日々で、恵の抑圧された「怒り」「悲しみ」はどんどん膨れ上がっていたはずです。
すずの場合、これが圧倒的な歌唱力としてUの世界で描かれています。
子供の頃、歌うのが大好きだったすず。
回想シーンでたくさん置かれてたレコーダーや、オーディオはお母さんの趣味だったのでしょう。
しかし母を事故で亡くし、大好きだった歌が歌えなくなってしまします。
クラスメイトにカラオケに連れていかれた時も、一人で歌おうとした時もすずは歌えませんでした。
歌いたいのに歌えない。
その抑圧がUの世界ですずのAS・ベルを圧倒的な歌姫にしました。
圧倒的な二人の能力。
この裏には現実世界の出来事が大きく反映されていたことが分かります。
しのぶくんの役割とは?
すずの幼馴染で、モテ男な「しのぶくん」。
しのぶくんの人気は校内でも高く、しのぶくんがすずに話しかけただけですずのチャットが嫉妬、妬みで炎上するほど。
5歳のときに母親を事故で亡くし憔悴するすずに「俺がまもってやる」と声をかけ、その日以来ずっとすずの身を案じていたしのぶ。
しのぶとすずの関係は、Uでのベルと「竜」の関係に似ています。
心配するしのぶと、その優しさを受け止めきれないすず。
Uでは、ベルが「竜」に歩み寄り、拒絶されていた関係に似ています。
このようなミスリードから、「竜」はしのぶくんなのでは?と視聴者に先入観を抱かせますが、上記の通り「竜」はしのぶではありません。
ではしのぶの役割とはなんだったのか。
役割① 母親の代わり
校内のヒロインと称される「ルカちゃん」はしのぶくんを「お母さんみたい」と称しています。
その発言通り、映画内でしのぶくんは、すずにとって母と同じ役割をしています。
授業中も常にすずの方を見ていたり(すずは気づいていない)、物語終盤ではベルがすずだと気づいています。
会話も「大丈夫?」「なんかあった」等、すずを常に気に掛けているしのぶ。
しのぶは何故そこまでするのか。
回想シーンで、幼いすずが雨で増水する川に入ろうとするシーンがあります。
すずは川で亡くなった母の後を追おうとしていました。
そのシーンで、すずの手を取りとめた人物がいます。
物語序盤ではその人物は明かされず、終盤でしのぶだったことが判明します。
そのシーン中、周りには誰もおらずもししのぶが止めていなかったらすずはきっとそのまま川に入っていたと予想されます。
しのぶはその日以来、「俺が守らないと」と強く感じたはずです。
だからそれ以来、ずっとすずの身を案じていたのでしょう。
自分が見ていないと、死んでしまうかもしれないから。
そのしのぶは、物語終盤すずが「竜」の信頼を得るためアンヴェイルするかしないかの二択を迫られた際、「すずなら大丈夫」とすずの背中を押します。
ずっとベルとしての活動を支えてきたヒロが反対する中、一人しのぶはすずに、ベルの正体を世にさらけ出す選択をさせます。
そしてベルではなくすずとして、見事歌を歌い切ったすず。
しのぶは幼いころからすずを見ていたから、今のすずならできると確信があったのでしょう。
子供を常に気にかけ、大きな決断をするときに子供の背中を押してあげられる。
そんな母親の役割を男性のしのぶがすることによって、この映画ではジェンダーの固定概念などにも配慮をしているのかなと考察します。
「竜とそばかすの姫」と社会問題との関係性はこちらの記事で詳しく書いています。
良ければご覧ください。
【徹底考察】「竜とそばかすの姫」はなぜ賛否両論分かれるのか。そこには現代の常識が大きく関係していた。 - 森に住まうサボテン。 (mori-sabo.com)
役割② 「竜」の拒絶を理解させる
物語中盤「竜」の拠点・城の中で心を通わせたかのように見えた「竜」とベル。
しかし、「竜」はベルの優しさを信じ切れず、「帰れ」と言い放ち逃げ出してしまいます。
まるで美女と野獣のようなこのシーン。圧巻でした。
この関係は現実世界のしのぶとすずの関係と酷似しています。
学校ではモテ男のしのぶ。休み時間にバスケをすれば周りの女子からは黄色い悲鳴が飛び交います。
一方現実世界のすずは誰からも見向きもされず、学校のヒロイン「ルカちゃん」とは太陽と月のように真逆と称されています。
しのぶがすずを心配して声をかけただけなのに、周りの目が怖くて拒絶してしまうすず。
この一連の出来事があったから、すずは「竜」の拒絶する気持ちを理解できたと言えます。
しのぶは、物語上母親の代わりと、すずに「竜」の気持ちを理解させる目的の二つを有していたのです。
しのぶのAS(アバター)はある?
筆者の考察では、しのぶはUを利用していないと考えています。
そのためASはないというのが筆者の考えです。
その理由を考察していきます。
理由① しのぶは自分を変えたいと思っていない
理由として、Uはもう一つの現実であり、現実をもう一度やり直すことができる場所と説明されています。
つまり利用している人たちは、なんらかの形で現実を変えたいと願う人です。
すずや恵は代表的な例ですね。
他にも、合唱団の5人、すずを見守る立場であったあの5人のマダム達も仮想世界UにAS を持っていました。
物語序盤、すずの「幸せとは何なのか」という問いに明確な答えを返せなかった5人。
(すずを成長させるため、あえて返答しなかったという可能性もありますが…。)
きっと彼女たちは、もう一つの現実Uでその答えを見つけたかったのではないでしょうか。
そしてみんな大好きルカちゃん。
すずのASのモデルでもあり美貌の持ち主でもあります。
ルカちゃんはモテ男のしのぶが好きなのでは?というミスリードがありますが実はカヌー部のカミシンに想いを寄せていました。
物語中盤、断りきれずルカちゃんの恋愛相談をすることになるすず。
そこでルカちゃんは好きな人に話しかけたものの、うまく話せず「キモイんですけど」と言われてしまったと語っています。
所属するマーチングバンドでもセンターを務め、その美貌から他の人からうらやましがられることも多かったはずのルカちゃん。
しかし、本人が想いを寄せるカミシンからはキモイと言われてしまいます。
きっと相当傷ついたはずです。
どんなに自分が容姿に恵まれていて、他人から好かれても、自分が好きな相手にキモイと言われたら自信を無くしてしまいますよね。
ルカちゃんもそんな現実を変えたいとの思いが少なからずあったのではないでしょうか。
一方、しのぶの願いは物語終盤に明かされます。
すずが恵と会い、地元に戻ってきたシーン。
細田守監督が成長の証として必ず登場させる入道雲の下で、すずはしのぶたちに出迎えられます。
「これでもう見守らなくてよくなった、これからは対等に付き合える。ずっとこうしたかったんだ」
しのぶが笑顔を見せるすずに伝えたセリフです。
しのぶの願いは、「すずが自分と対等の存在になること」だったのです。
そのためしのぶに仮想世界Uを利用する動機はありません。
しのぶはあくまですずが見守る必要がなくなるように成長することを望んでいるのであって、自分が変わりたいと願っているわけではないからです。
理由② 仮想世界U以外のアプリの存在
サマーウォーズと違い、「竜とそばかすの姫」にはU以外にもラ〇ンのようなチャットが存在しています。
すずがしのぶに話しかけられ、炎上していたシーンに登場しています。
仮想世界Uは匿名の世界なので、あの世界でクラスメイトと話したら本末転倒ですよね。
アンヴェイル(オリジナルが誰なのかわかってしまう)が罰則な世界ですから、知人と連絡をとる手段はほかにあるはずです。
実際、すずも最近になってUのアカウントを作ったわけですし、誰しもがASをもつのが常識というわけではなさそうです。
そのため、しのぶがASを持っていないというのも、おかしな話ではないのでしょうか。
一方同じく細田守監督のサマーウォーズでは、友達や家族とチャットをする際にも仮想世界OZのアバターを使っていたので、アカウントを持っていないというのはなかなか厳しい設定になってしまいそうです。しのぶがサマーウォーズの世界の住人なら、きっとアカウントを持っていたでしょう。
Belleの存在も、仮想世界Uではなく、現実世界のどこかで聞いたのでしょう。
クラスメイトから、あるいはインターネットなどで。
ずっとすずを見守っていたしのぶですから、Belleが話題になったと同時にすずに変化が現れたことに気づいたはずです。
案外、Uを使っていなかったからBelleがすずだと気づけたのかもしれませんね。
Uの中ですずの歌声を聞き、圧倒的な人気を目にしてしまったらあれがすずだとは想像ができなかったかもしれません。
一歩外で見ていたから、Belleの正体に気づけたというのもしのぶにASがない理由になりうるのではないでしょうか。
....それでもしのぶなら気づいてしまいそうな気もしますが…。(笑)
総評
ストーリーに若干ご都合主義はあったかもしれませんが、
(終盤の恵達を探すとき、なんでみんなそれだけでわかるんだ!とツッコミを入れたくなりました)
すずの歌と、映像美により退屈することなく楽しむことができました。
母の行動が理解できなかったすずが、物語を通じて母と同じ立場になり母の気持ちを知る。
そんな主人公の成長物語が見られる良作だと感じました。
もちろん歌と映像は圧巻なので、是非映画館での視聴をお勧めします。
賛否両論ある本作ですが個人的には結構お気に入りです!
映画への考察を別の視点から行った記事です。よければどうぞ!
【徹底考察】「竜とそばかすの姫」はなぜ賛否両論分かれるのか。そこには現代の常識が大きく関係していた。 - 森に住まうサボテン。 (mori-sabo.com)